イーサリアム考案者の最新講演ほか ニュースダイジェスト 2-28-2022
◎Vitalik氏の最新講演
イーサリウムの考案者Vitalik Buterim(ビタリック・ブテリン)氏の最新の講演動画。いくつか面白いコンセプトがあるので、メモ。ちょっと勉強しないとね。
テック業界のヒーローは、スティーブ・ジョブズからイーロン・マスク、そして最近ではビタリックになってきているように思う。
【高速通信民主主義】
今日の民主主義は、「低速通信民主主義」だと言う。4年に一度の選挙の際に投票するだけだからだ。テクノロジーを使えば、必要なときに意見を表明できるhigh bandwidth democracyが可能になる、としている。
ただし重要なのはセキュリティ。SNSの「いいね!」は高速民主主義なんだけど、セキュアじゃないので、誰かによって操作されているかもしれない。TwitterのReTweetはボットの仕業かもしれないし。
高セキュリティ、高通信容量民主主義にするには、投票内容を見られないようにする暗号技術と、投票を正確に集計できるゼロ知識証明技術、投票内容を検閲されていないかを確認するためのブロックチェーンなどの技術。
しかし「まずは連邦政府の選挙制度を変えよう、と考えるべきではない」と同氏。「今あるものに暗号技術を追加するのではなく、新しい機能を持った新しいモノを作るべき。これまでできなかったことを可能にすることのほうが、人々にとって価値があるから」。(動画の15分25秒から)
政府、自治体以外で、セキュアで高速民主主義が求められている領域って、どこなんだろう。
【ゼロ知識証明技術】
Zero Knowledgy Proof。相手にその知識を教えずに自分がその知識を知っていることを証明する方法。位置情報や過去の取引履歴などのプライベートな情報、あるいはビジネスでの利用場面で競合他社に知られたくない情報を、公開することなくスマートコントラクトとして実行することが可能になる。覚えておきたい技術名はZK Snark。ZKはゼロ・ナレッジの頭文字。
【Quadratic Funding(2乗ファンディング)】
金額より人数を重視するマッチング寄附の方法。富裕層や企業が「集まった寄付金と同額を寄附します」というマッチング寄附ってときどき見かけるけど、自治体がこの方法を採用し、住民の寄付総額と同額を自治体の予算から支出することになれば、少数のお金持ちが支持する施策に、より多くの行政の予算が使われることになる。
Quadratic Fundingの計算方法では、個人の寄付額をルートした額の総額を二乗した額が、自治体の支出額になる。
例えば一般庶民の鶴さんという人が4円を寄付し、金持ちの谷もっちゃんという人が16円を杉並区のカジノ建設プロジェクトに寄付したとしよう。また図書館建設プロジェクトに鶴さん、まなみん、片ちゃん、谷ソーという庶民4人がそれぞれ一円ずつを寄付し、谷もっちゃんが16円寄付した。
マッチングだと、杉並区はどちらのプロジェクトにも20円を支出する。ところがQuadratic Fundingだとカジノ建設プロジェクトの場合、√4は2円、√16は4円。合計6円を二乗した36円を杉並区が支出する。図書館建設プロジェクトの場合、√1は1円、それが4人なので4円。√16は4円。合計8円。それを二乗した64円を杉並区が支出する。
単純なマッチングだと杉並区の支出額に、金持ちの谷もっちゃんの意向がより濃く反映されるが、Quadratic Fundingだとより多くの人が望むプロジェクトに杉並区の予算が使われることになる。
Vitalik氏は、トークンを使った投票としてはQuadratic Fundingが望ましく、Quadratic Funding方式でトークンによる投票を行えば、自治体の採択事項に住民がより頻繁に参加できるようになる、と提案している。(18分20秒辺り)(このお話はフィクションであり、実在する人物の財政事情を反映したものではありません)
【非中央集権の政治システム】
Vitalik氏は「非中央集権の政治システムを作ることは、21世紀の最大のチャレンジの1つ」と言う。
セキュアで頻繁に政治に参加できる民主主義の仕組みを作ることが、彼らの目標であるものの、それは簡単ではなく21世紀中に実現するのかどうか分からないということを、この発言は意味している。
「非中央集権の民主主義なんてできっこないよ」とWeb3を批判する人がいるが、それが困難で、すぐにはできそうもないことを、Vitalik氏も重々承知しているということになる。(28分52秒辺り)
「まずは住民の意向を問うための住民投票のような使い方でもいいと思う。世論調査のようなものでもいい。そこでこの仕組みが使えるなということが広く認知されるようになれば、いずれ選挙などにも使われるようになるかもしれない」「既存の仕組みに取って代ろうとするのではなく、新しい仕組みを作って、それが使えるとなれば、新しい仕組みのほうがだんだんと使われるようになり、結果として既存の仕組みに取って代わるということがあるかもしれない」
【まもなくProof of Stakeへ移行】
ブロックチェーンは新しい情報を追加する際に、莫大な量の計算をする必要がある。簡単に計算できないことで情報の改竄を防いでいるわけだが、大量の計算はかなりの電気消費を伴う。これが地球環境にやさしくないとして、ブロックチェーンに対する1つの批判になっている。現状の仕組みはProof of workと呼ばれ、計算するという「work」をすることで決まった額の暗号通貨が、ブロックチェーンを維持する仕事に対する報酬としてもらえることになっている。
一方、計算ではなく、通貨をどれくらい持っているかということで、ブロックチェーンを更新する仕組みはProof of Stakeと呼ばれ、この方法なら大量の計算が不要で、電気代もあまりかからず、発電で二酸化炭素を排出することもない。
Vitalik氏が考案したイーサリアムは、Proof of Stakeを実装するための研究開発を数年に渡り続けてきており、あと1ヶ月ほどでいよいよ完成する予定だという。
【プライバシーの役割】
プライバシーの役割の1つは、国家、企業、大衆の悪い行いから身を守ること。
それだけがプライバシーの役割ではなくて、社会が機能するにはプライバシーは不可欠と言える。その1つの例が秘密投票。投票内容を知られることがないので、本音で投票できる。力を持っている人間でも、投票を強要できない。
「だれか、これ開発してくれないかな」とVitalik氏が言うのは、ゼロ知識証明技術を使った投票システム。ゼロ知識証明を使うことで、投票権を持ったコミュニティーのメンバーであることを証明できて、ボットによる投票を排除できる。
◎ワイオミング州のDAO法
米ワイオミング州は、DAO(非中央集権自律組織)を法的に認める法律を採択している。DAOはLLC(合同会社)の一種として100ドルで設立が可能らしい。同州に住んでなくても設立可能。LLCは人間が運営するが、DAOは人間が運営してもアルゴリズムが運営してもいい。
◎ブロックチェーン最新事例①ランボルギーニ
中古でも50万ドルもするので、本物であることを証明してもらいたいというニーズがある。今はイタリアの本社に持って行けば1000項目のチェックポイントで本物を証明してくれるが、あまりに時間とコストがかかる。そこでSalesforceと組んで、ブロックチェーンを使って本物であることを証明することにした。「ブロックチェーンは、企業の信用と透明性を確立する方法を変える」とSalesforceのAdam Caplan氏。
◎ブロックチェーン最新事例②Walmart Canada
請求書と支払いを自動で管理するシステムをブロックチェーンで開発した。
配送センターと店舗の間の配達は年間50万回。配達の場所、燃料、気温などを計算して請求書に記載。70%の請求書は運送会社との照合作業が必要。問題は、Walmartと運送会社のシステム間でデータ形式が異なるため、照合作業は手作業になる。
そこでブロックチェーンに詳しいDLT Labs社に相談。同社が、運送会社69社とデータを共有できるシステムの開発に成功した。仕事のオファーの段階から納品証明、支払いまでを管理。担当者がリアルタイムで確認できるという。
システム開発の重要な点
(1)主なステークホルダーを巻き込む
(2)ブロックチェーンはプライベートかパブリックのどっちがいいかを検討
(3)ルールや計算方法で合意する
(4)チェックとバランス
(5)従来のITシステムとの共存
◎ブロックチェーン最新事例③学習履歴
「大学教育で十分。あとは会社でスキルを身につける」。技術革新のペースが加速する中で、こうした学習や訓練の考え方は時代遅れになろうとしている。世の中の技術革新に大学教育がついていくことはますます困難になるし、会社内に新しいスキルを持っている人が少なければ同僚に教えることができない。
このため教育は、大学などで必要なことを一度に教える「マクロ教育」から、必要なスキルを必要なときに教える「マイクロ教育」に移行していく、と言われている。それに伴い個人のスキルレベルを示す書類が、大学の卒業証書から、複数の短期コースの修了証を総合したものになっていくと見られている。
その複数の修了証を記録し、閲覧可能にするためにブロックチェーンを使おうという動きがある。ブロックチェーンを使うことで経歴詐称が不可能になり、人材募集も簡単になると見られている。
米IBMは、ペットのトリマーなどを養成するVetBloom社と共同で獣医学の学習履歴を証明するブロックチェーンの仕組みの開発を始めた。既に大手の動物病院や大学などの協力を取り付けているという。
AIのアルゴリズムが生む数々の問題を解決するための先進的な法律が中国で可決され、3月1日から施行される。正式名称は「インターネット情報サービス・アルゴリズム・レコメンデーション管理規定」。具体的にはAIアルゴリズムによって、ユーザーの過去データをベースに価格を変動させたり、フェイクニュースをレコメンドしたり、競合他社を排除することなどを禁止。一方で高齢者を保護することを義務付けている。
米国などでも、アクセス増を目的関数に設計されたAIアルゴリズムが、ユーザーに対し少しずつより刺激的な情報をレコメンドすることで、ユーザーの思想が先鋭化、世論が分断される結果につながっているという指摘がある。米国を混乱させたい国家やグループがフェイクニュースを流し、米国のネットサービスのAIアルゴリズムがそのフェイクニュースを拡散させる結果になっているという指摘だ。
米国ではまだ有効な打ち手が見つかっていないが、中国ではネット企業に対して罰金などを課すことで取り締まりを強化したい考え。
中国の国民の間では、この法律を支持する人が多いという。
この法律をスタンフォード大学が英語に翻訳している。
中国語の原文
Wired誌の解説記事
◎メタバース内でレイプ
Metaのメタバース内で、英国人女性のアバターが数人の男性アバターからレイプされたと公表して、話題になっている。メタバースにおいて、何を持ってレイプになるのかの定義は難しいが、男性アバターから卑猥な罵声を浴びて、メンタルにダメージを受けたという。
オンライン上では無責任な行動を取る人が多いので、そうした被害がこれから増えるだろうなあ。
◎ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の宇宙人探しは、大気汚染探し
文明なら大気汚染してるでしょ、ということで新しい宇宙望遠鏡は大気汚染を探すらしい。その前提が正しいのかどうか分からないけどw
でもHubble宇宙望遠鏡のおかげで宇宙のことがずいぶんと分かったように、新しい望遠鏡のおかげで宇宙の謎がどんどん解明されるだろうなあ。
楽しみ。
◎ウクライナ軍へのビットコインの寄付が急増中
12時間の間に40万ドルの寄付が集まった。まだまだ集まりそう。
【続報】寄付を募っていたNGOのクラウドファンディングのページが閉鎖された。クラファン事業者は「軍事目的の募金活動は、規約違反」としている。
◎MIT Technology Reviewが選ぶ今年の10大技術
①パスワードを不要にする技術
②コロナ亜種追跡技術
③電力会社むけ長時間バッテリー
④タンパク質折り畳みAI
⑤マラリアのワクチン
⑥ブロックチェーンのProof of Stake(消費電力が少なくなるから)
⑦コロナの治療薬
⑧フュージョンリアクター
⑨AIの学習データ生成技術
⑩カーボン除去工場
◎極小センサーのための極小電池
極小センサーを10時間作動させることが可能。医療リサーチや、ホコリ大のセンサーにつけて空気の状態をモニターできるらしい。
◎Amazonの家庭向けロボットは失敗?
半年前に発売になったAstroって、結局数百台ぐらいしか売れていないみたい。
◎AI心理カウンセラー
自然言語処理技術が急速によくなってきているので、いずれ使えるサービスになるとは思うけど、現時点でどうなんだろう。人間じゃないので、プライベートなことでも話せるというメリットはあるかもしれないけど、一方で本当に会話が成立するのかどうか。でもこの分野は要注目。
◎音波が骨を成長させる
幹細胞に高周波数の音波を当てれば、骨として成長するらしい。RMIT大学の研究
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湯川鶴章(ゆかわ・つるあき)
ニューズウィークにコラム連載中
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